|
淀川流域を対象とする実時間流出予測システム
淀川流域(枚方上流域、7281km2)を対象とした実時間流出予測システムを稼動させています。
(左の淀川画像をクリックすると予測表示画面に移動します。) |
- 予測システムの構成
- 佐山ら(2005)によるダム流況制御効果を取り込んだ広域分布型流出予測システムを予測エンジンとしています。予測モデルは以下の技術基盤の上に構築されています。
- 流域地形は、250m分解能の数値地形モデルと国土数値情報河道位置データを用い、椎葉ら(1999)による手法を用いて表現しています。これを実現した計算機プログラムパッケージとして市川らによる流域地形情報を基盤とした水文モデル構築システム GeoHyMos、GeoHyMos Geomorphologically-based Hydrological Modeling System があります。淀川の流域地形モデルは、GeoHyMosをベースに、一部改良を加えて構築しています。
- 流れのモデルは市川ら(2001)のモデルに立川ら(2004)の流量流積関係式を用いたキネマティックウェーブモデルを用いています。
- ダムモデルには市川(2001)によるダム要素モデルを用いています。
- システム構成には椎葉研究室で開発・保守が行われている構造的モデリングシステムOHyMoS、Object oriented Hydrological Modeling Systemを用いています。
- 予測システムは立川(2007)に記述しています。
- 入力データ(現況および予測降水量)
- 1時間前から現在時刻:(財)日本気象協会による超短時間降水予測による実況値(空間分解能2.5km、時間分解能10分)
- 3時間先までの降雨予測データ:(財)日本気象協会による超短時間降水予測(空間分解能2.5km、時間分解能10分)
- 3から6時間先までの降雨予測データ:気象庁による短時間降水予測(空間分解能5km、時間分解能60分)
- 6から最大51時間先までの降雨予測データ:(財)日本気象協会による気象協会メッシュ予測(空間分解能5km、時間分解能60分)。実時間予測システムでは6時間先までの予測情報を記録しています。
入力データ(気象データ)
- 流域内アメダス観測地点における気温、日照時間、風速および気象官署の毎時水上気圧データ。
- 最近隣法を用いて、現況および予測雨量と同じ2.5km格子の気象情報を作成し、熱収支法を用いて格子ごとの蒸発散量を推定します。予測計算では、現況計算で得た蒸発量と同じ値が、6時間、継続するとしています。
- 予測方法
- 予測は実時間データ配信の遅れを考慮し、毎時13分頃に行われます。現在時刻を10時13分として、以下に予測値の計算例を示します。
- 9:00までの降水量現況データを用いた流量再現計算が終わっており、この時点での流出モデルの状態量が保存されています。
- 9:00のシステムの状態を初期値とし、9:00から10:00までの実況観測雨量を用いて10:00のモデル計算値を得ます。次の時刻の予測に用いるために、この時刻の状態量をファイルに記録します。
- 10:00から6時間先までの予測降雨を用いて、流出予測計算を実行します。
- 予測結果を出力します。また、PostgreSQL に予測結果をロードします。PostgreSQLに格納する情報は毎正時の値とします。
- 予測結果の表示
- PostgreSQLに格納された予測データ(時系列)をPHPを用いてインタラクティブに表示します。
- 降雨および流量の動画は、予測システムが10分ごとに出力するテキスト情報からpng形式の画像を作成します。
- 今後のシステム開発の予定
- 現時点のシステムには、観測流量を用いた同化・初期値化システムが導入されていません。現在、カルマンフィルターを用いた同化システムを分布型流出予測システムに組み込む研究を実施しています。近い将来、同化・初期値化システムを実時間予測システムを追加していく予定です。
- 流量予測だけでなく、水位を予測するための研究開発を実施しています。
- 技術情報
- 予測システムを動作させている計算機環境は以下です。
- 注意事項
- 本システムは開発途上にあります。時々刻々得られる気象予測・観測データを用いて河川流量の予測計算を実施し、実時間で予測結果を見ながら、より予測精度の高い水理・水文予測モデルを開発していくことが目的です。この予測システムが出す予測結果は、予警報とは関係していません。
- 謝辞
- 本システムを開発するに当たって、平成17, 18年度国土交通省建設技術研究助成「リアルタイム高度水防災情報提供システムに関する研究開発」、平成19,
20年度河川整備基金助成事業「高空間分解能リアルタイム洪水予測モデルへの大規模フィルタリングシステムの導入と中小河川水位予測への展開」の補助を受けました。情報ネットワーク構築に関しまして京都大学防災研究所技術室の援助を得ました。また、降雨予測情報の実時間データ処理、予測結果表示システムの開発においては(財)日本気象協会からサポートを得ました。
- 参考文献
- 福山拓郎, 立川康人, 椎葉充晴, 萬 和明: ダム貯水池による流水制御過程を導入した実時間分布型流出予測システムの開発, 水工学論文集, 第54巻,
pp. 541-546, 2010.
- 安 賢旭, 立川康人, 道広有理, 椎葉充晴, 市川 温: 流域全体を対象とする河川水位の実時間予測情報提供システムの開発, 河川技術論文集,
15, pp. 389-392, 2009.
- 立川康人, 福山拓郎, 椎葉充晴, 市川 温: バイアス補正カルマンフィルタを用いた実時間分布型流出予測システムの改良, 河川技術論文集, 15,
pp. 383-388, 2009.
- 立川康人, 須藤純一, 市川 温, 椎葉充晴, 中小河川を対象とする河川水位予測手法の構成法について, 河川技術論文集, 14, pp. 35-40,
2008.
- 佐山敬洋, 立川康人, 寶 馨, バイアス補正カルマンフィルタによる広域分布型流出予測システムのデータ同化, 土木学会論文集, 土木学会論文集
B, Vol. 64, No. 4, pp.226-239, 2008.
- 立川康人・佐山敬洋・宝 馨・松浦秀起・山崎友也・山路昭彦・道広有理(2007): 広域分布型物理水文モデルを用いた実時間流出予測システムの開発と淀川流域への適用,
自然災害科学, 26-2, pp. 189-201, 2007.
- 佐山敬洋・立川康人・寶 馨・市川温(2005)広域分布型流出予測システムの開発とダム群治水効果の評価, 土木学会論文集, No. 803/II-73,
pp. 13-27.
- 立川康人・永谷 言・寶 馨(2004)飽和不飽和流れの機構を導入した流量流積関係式の開発, 水工学論文集, vol.48, pp. 7-12.
- 市川 温・村上将道・立川康人・椎葉充晴(2001)流域地形の新たな数理表現形式に基づく流域流出系シミュレーションシステムの開発,土木学会論文集,No.691/II-57, pp. 43-52.
- 市川 温(2001)分布型流域流出系モデルの構成と集中化に関する研究,京都大学博士論文.
- 椎葉充晴・市川 温・榊原哲由・立川康人(1999)河川流域地形の新しい数理表現形式, 土木学会論文集, No.621/II-47, pp. 1-9.
- 椎葉 充晴・立川康人・市川 温(1998) 流域地形の新しい表現形式とその流域モデリングシステムとの 結合、京都大学水文研究グループ研究資料,no. 1, 131p.
- 高棹琢馬・椎葉充晴・市川 温(1995)構造的モデリングシステムを用いた流出シミュレーション,水工学論文集, 第39巻, pp. 141 -
146.
予測表示画面のページ
last update June 27, 2010 YT